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福井地方裁判所 平成7年(行ウ)4号 判決

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が、原告Aに対し、平成六年五月二〇日付けでした別紙物件目録(一)ないし(五)記載の各土地についての仮換地指定処分を取り消す。

二  被告が、原告Bに対し、平成六年五月二〇日付けでした別紙物件目録(六)記載の土地についての仮換地指定処分を取り消す。

三  被告が、原告Cに対し、平成六年五月二〇日付けでした別紙物件目録(七)記載の土地についての仮換地指定処分を取り消す。

四  被告が、原告Dに対し、平成六年五月二〇日付けでした別紙物件目録(八)及び同(九)記載の各土地についての仮換地指定処分を取り消す。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

本件は、土地区画整理事業の施行者である被告が、右事業の施行地区内に土地を所有していた原告らに対して仮換地指定処分をしたところ、右処分には、これに先立つ土地区画整理事業の事業計画等の公告方法の違法、照応の原則違反等の違法があるとして、原告らが、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実及び弁論の全趣旨によって認められる事実

1  被告は、福井都市計画事業北部第七土地区画整理事業(以下「本件整理事業」という。)の施行者であり、原告Aの所有する別紙物件目録(一)ないし(五)記載の各土地(以下それぞれ「土地(一)」ないし「土地(五)」という。)、原告Bの所有する同(六)記載の土地(以下「土地(六)」という。)、原告Cの所有する同(七)記載の土地(以下「土地(七)」という。)、原告Dの所有する同(八)及び同(九)記載の各土地(以下それぞれ「土地(八)」「土地(九)」という。)は、いずれも本件整理事業の施行地区内にあった。

2  被告は、平成四年一一月一八日、本件整理事業の事業計画の縦覧開始の日、縦覧場所及び縦覧時間を、同年一二月二八日、施行者の名称、事業施行期間、施行地区、土地区画整理事業の名称、事務所の所在地及び事業計画の決定の年月日を、同日、土地区画整理法(以下「法」という。)五五条八項の規定により送付を受けた図書の縦覧場所を、平成五年一月八日、土地区画整理審議会委員(以下「委員」という。)の選挙期日及び選挙人名簿の縦覧開始の日、縦覧場所及び縦覧時間を、同年二月一六日、選挙人名簿の縦覧期間内に異議の申出がなかったこと及び施行地区内の宅地の所有者又は施行地区内の宅地について借地権を有する者が当該選挙において選挙すべき委員の数を、それぞれ福井市役所前掲示場並びにα、β、γ、δ及びεの各連絡所の掲示場に掲示して公告した。

3  原告らは、平成四年から平成六年までの間、いずれも福井市外に居住していた。

4  被告は、平成六年五月二〇日付けで、原告Aの所有する土地(一)ないし(五)に対して別紙物件目録(一〇)記載の土地(以下「土地(一〇)」という。)を、原告Bの所有する土地(六)に対して同(二)記載の土地(以下「土地(二)」という。)を、原告Cの所有する土地(七)に対して同(一二)記載の土地(以下「土地(一二)」という。)を、原告Dの所有する土地(八)及び(九)に対して同(一三)記載の土地(以下「土地(一三)」という。)を、それぞれ仮換地として指定した(以下「本件仮換地指定処分」という。)。

二  争点

1  本件仮換地指定処分に先立つ公告方法の適法性

(原告らの主張)

被告がした公告では、福井市外に居住していた原告ら及び本件各土地の借地人が公告にかかる内容を了知できる可能性はなかった。したがって、右公告は違法であり、これを前提とする本件仮換地指定処分は、原告らに対し、事業計画の縦覧(法五五条一項)、利害関係者による福井県知事宛の意見書の提出(同条二項)、施行者の名称等の公告(同条九項)、関係図書の縦覧(同条一〇項)、関係簿書の閲覧(法八四条二項)、土地区画整理審議会委員の選挙における被選挙権及び選挙権の行使(法五八条一項、六三条一項)等の機会を全く与えずになされた、不公正かつ不平等な手続に基づく処分であり、違法である。

被告が福井市公告式条例(昭和二五年八月三〇日条例第四〇号。以下「公告式条例」という。)に従い形式的に適式の手続を行ったとしても、原告らのような福井市外に居住する者に対しては実効性がないのであるから、このような場合は、被告が公告方法の不備を補充する何らかの手続を講じるべきことが法の趣旨から要請されているというべきである。

(被告の主張)

被告は、平成四年一一月一八日、本件整理事業の事業計画及び利害関係者が福井県知事に意見書を提出することができることを、同年一二月二八日、施行者の名称等及び関係図書を福井市役所において公衆の縦覧に供することを、平成五年一月八日、土地区画整理審議会委員の選挙期日及び選挙人名簿を公衆の縦覧に供することを、同年二月一六日、選挙人名簿が確定し、選挙における立候補届及び立候補推薦届を受け付けることをそれぞれ公告している。右各公告は、公告式条例二条にしたがって、福井市役所前掲示場並びにα、β、γ、δ及びεの各連絡所の掲示場に掲示して行われたものである。また、被告は、右各公告のほかに、説明会等も実施している。したがって、本件仮換地指定処分の手続に不公正、不平等はなく、本件仮換地指定処分は適法である。

また、原告B及び同Cは、本件仮換地指定処分以前に本件整理事業が行われることを知っていたものである。よって、手続上の違法はない。

2  照応の原則違反の有無

(原告らの主張)

(土地(一)ないし(五)、(八)及び(九))について

原告Aの所有する土地(一)ないし(五)の実測面積は合計一三〇五・三七平方メートルであるのに対し、これに対する仮換地である土地(一〇)の地積は合計一二三九・五三平方メートルであり、原告Dの所有する土地(八)及び(九)の実測面積が一五六・八四平方メートルであるのに対し、これに対する仮換地である土地(一三)の地積は合計九七・八六平方メートルであって、いずれも仮換地の地積が従前地の地積に比して著しく減歩されており、照応の原則に違反する。

また、被告は基準地積の更正について、福井都市計画事業北部第七土地区画整理事業施行規程(平成四年三月二六日条例第五号。以下「施行規程」という。)一八条を遵守していない。

(土地(一)、(二)、(四)、(五)及び(八)について)

本件整理事業において、原告Aの所有する土地(一)、(二)、(四)、(五)及び原告Dの所有する土地(八)の西側に接する道路が拡張されたが、道路の拡幅が右各土地側についてのみ行われ、その反対側には全く拡幅されていないが、右は照応の原則に違反する。

(土地(六)及び(七)について)

原告Bの所有する土地(六)及び原告Cの所有する土地(七)は、隣接しており、両土地は一体として利用されているところ、これらに対する仮換地である土地(一一)及び(一二)は従前地に比べて道路に接する間口が狭く、奥に細長くなり、利用価値及び地価が減少し、特に、土地(一一)と(一二)とを分筆して利用した場合においてその程度は著しいから、照応の原則に違反する。

(土地(六)ないし(九)について)

原告Bの所有する土地(六)と原告Cの所有する土地(七)は、訴外Eの相続人に賃貸され、同相続人はこれらの土地上に、福井ζ二〇番地二、二〇番地二先所在、家屋番号二〇番二、木造瓦葺二階建居宅、床面積一階一〇一・七四平方メートル(現況一一一・一一平方メートル)、二階二六・一一平方メートル及び車庫一棟を所有している。ところが、土地(六)及び(七)の仮換地である土地(一一)及び(一二)に右居宅及び車庫を移転しようとすると、かろうじて移転することはできるものの、民法上要求される建物と境界線との距離五〇センチメートルを確保することができないため、違法建築となる上、道路から玄関への通路を確保することができず、建物としての効用を維持できないから、実質的には右居宅及び車庫を現況のまま仮換地上に移転することは不可能である。また、飛換地であるため、移転するには解体移転によらざるをえないから、むしろ除却するのが相当であるという状況にある。

他方、原告Dの所有する土地(八)及び(九)は、訴外Fに賃貸され、同人はこれらの土地上に、福井市η三三番所在、家屋番号三三番、木造セメント瓦葺二階建居宅、床面積一階六五・二八平方メートル(現況七五・八四平方メートル)、二階三三・〇五平方メートルを所有している。ところが、土地(八)及び(九)の仮換地である土地(一三)に右居宅を現況のまま移転することは不可能であり、改造するにしても建築基準法の規制から右居宅の現在の面積を確保することはできないから、右居宅はこれを除却する必要がある。

このように、従前の利用方法が全く不可能となるような仮換地の指定は、照応の原則に違反する。

また、土地上の建物の除却が必要になる場合はもちろん、改造により建物の同一性が保たれない場合は、借地権は消滅することになるが、このような仮換地の指定はそれ自体不当であり、違法である。

(五) (土地(一)ないし(五)について)

原告Aの所有する土地(一)ないし(五)には、公図上国有地であるが、現況は宅地として土地(一)ないし(五)に取り込まれた部分があるところ、これに対して仮換地が指定されていないが、右は照応の原則に違反する。

(六) (土地全部について)

訴外Gが本件整理事業の施行地区内に所有していた福井市θ三九番一及び同五二番四の土地には、公図上国有地であるが現況は宅地として取り込まれていた部分及び私有地ではあるが現に道路の用に供されていた部分があるところ、これらいずれに対しても仮換地が指定されず、登記簿上の地積合計一〇〇・五二平方メートルであった右従前地に対し、地積合計四七・八四平方メートルの仮換地しか指定されなかったことは、公平の原則に反し違法である。そして、右は、本件仮換地指定処分をも、照応の原則に違反するものとして違法とするものである。

(被告の主張)

(原告らの主張(一)に対して)

本件整理事業においては、施行規程が登記簿上の地積を基準に換地処分をすると定めている。そして、土地(一)ないし(五)、(八)及び(九)については、施行規程一八条に基づき、登記簿上の地積に基づき仮換地の指定がなされているから、照応の原則に違反しない。

(原告らの主張(二)に対して)

土地区画整理事業は、公共施設の整備改善をも目的とするものである。そして、公共施設を新設ないし変更するための用地は、土地の区画形質の変更を通じて、従前地に対する換地面積の減少分から確保されるべきものであり、公共施設の配置等により各区域において差があるのは当然であるから、道路拡幅部分がすべて土地(一)、(二)、(四)、(五)及び(八)にのみ拡幅されているとしても、その一路線をもって不公平であるとはいえず、照応の原則に違反しない。

(原告らの主張(三)に対して)

従前地である土地(六)及び(七)は従前一体として利用されていたのであるから、これに対する仮換地も一体として利用価値を考慮すれば足りる。したがって、仮換地である土地(一一)と(一二)とを分筆した場合の利用をもって、照応の原則に反するということはできない。そして、土地(一一)及び(一二)を一体としてみた場合、土地(六)及び(七)よりも間口が狭まるとしても、建物自体は建築可能であり、従前地と同等の利用が可能とみられる以上、従前地よりも利用価値や価格が著しく低下するということはできず、照応の原則に違反しない。

(原告らの主張(四)に対して)

原告が主張するのは、要するに従前地である土地(六)ないし(九)の借地人の不利益であるところ、借地人が不利益を受けることをもって、原告らに対する仮換地指定処分が違法になるということはできない。

また、土地(六)及び(七)、土地(八)及び(九)は、それぞれ一体として利用されていたのであるから、これに対する仮換地も一体としてその利用価値を考慮すれば足りるところ、形状が従前地と異なり、従前地上の建物をそのまま移築することができないとしても、建物自体は建築可能であり、行政実例からしても、従前地と同等の利用が可能とみられる以上、照応の原則に違反しない。建物の移転は建物所有者と被告の間の協議により、損失補償で解決すべきことである。

原告らの主張(五)に対して

国有地を占有していたからといって、その所有権が占有者に移転するわけではないから、これに対して仮換地が指定されないことは当然であり、何ら違法はない。

原告らの主張(六)に対して

Gの所有土地に対する仮換地の指定における違法は、原告らに対する本件仮換地指定処分の違法事由とはならない。

そして、国有地を占有していたからといって、その所有権が占有者に移転するわけではないから、これに対して仮換地が指定されないことは当然であり、何ら違法はない。

また、私道敷として公共の用に供されていた土地に対しては、換地を与える必要はないと解されるから、これに対して仮換地が指定されないことにも、何ら違法はない。

3  本件整理事業における未指定地の違法性

(原告らの主張)

本件整理事業の施行地区内には、多数の未指定地(以下「本件未指定地」という。)があるが、その配置は所有者に未指定地を買い受けさせて事業費用を捻出しようとした不合理なものであって、法九六条二項の用件を欠き、あるいは同条項の趣旨を逸脱ないし濫用するものであり違法である。したがって、このような未指定地を伴う本件仮換地指定処分は違法である。

(被告の主張)

本件未指定地は、法九六条二項の「保留地」予定地であり、同項の定める①土地区画整理事業施行後の宅地の価格の総額と施行前の宅地の価格の総額との差の範囲内で、②事業費用にあてるためという要件を満たすものであるから、適法である。

4  文化財保護の観点からの違法事由の有無(土地(一)ないし(五)について)

(原告らの主張)

土地(一)ないし(五)の周囲は石垣(以下「本件石垣」という。)によって囲まれているが、本件石垣はかつての北の庄城(福井城)の石垣の石を移設したものであり、福井市の文化的遺産である。そして、本件仮換地指定処分は、本件石垣につき移設の必要を生じさせるものであるが、本件石垣の石は相当に古く傷んでいるため、これを損傷せず移設復元するのは技術的に困難である上、莫大な費用を要する。このような仮換地指定処分は、福井市民全体に文化的損失を与えるものであり違法である。

(被告の主張)

本件石垣は、文化財保護法五七条に定める埋蔵文化財であるが、出土状況等が明確ではなく、その史料的価値は低下しているし、本件石垣の移転、移設は可能である。したがって、本件石垣の移転の必要が生じることのみをもって、本件仮換地指定処分が福井市民全体に文化的損失を与えるものとして違法であるということはできない。

第三争点に対する判断

一  本件仮換地指定処分に先立つ公告方法の適法性(争点1)について

1  法五五条一項は、「市町村が五二条一項の事業計画を定めようとする場合においては、市町村長は、事業計画を二週間公衆の縦覧に供しなければならない。」と、同条九項は、「市町村が事業計画を定めた場合においては、市町村長は、遅滞なく、建設省令で定めるところにより、施行者の名称、事業施行期間、施行地区その他建設省令で定める事項を公告しなければならない。」と、同条一〇項は、「市町村長は、前項の公告の日から一〇三条四項の公告の日まで、建設省令で定めるところにより、八項の図書(施行規程及び事業計画につき法五二条一項の認可を申請する場合に提出される施行地区及び設計の概要を表示する図書の写しが市町村長に交付されたもの。)を当該市町村の事務所において公衆の縦覧に供しなければならない。」とそれぞれ規定している。

また、政令である土地区画整理法施行令(以下「施行令」という。)三条は、「市町村長は、法五五条一項の規定により事業計画を公衆の縦覧に供しようとする場合においては、あらかじめ、縦覧開始の日、縦覧場所及び縦覧時間を公告しなければならない。」と、施行令一九条は、「委員の選挙を行う場合においては、市町村長は、あらかじめ、選挙期日を定め、これを公告しなければならない。」と、施行令二一条二項は、選挙人名簿の縦覧について三条の規定を準用する旨を、施行令二二条一項は、「市町村長は、二一条一項の規定による(選挙人名簿の)縦覧期間内に異議の申出がなかったときは、その旨を公告しなければならない。」と、同条四項は、「市町村長は、一項の公告をする場合においては、併せて施行地区内の宅地の所有者又は施行地区内の宅地について借地権を有する者が当該選挙において選挙すべき委員の数を公告しなければならない。」とそれぞれ規定している。

そして、建設省令である土地区画整理法施行規則(以下「施行規則」という。)四条一項は、法五五条九項に規定する建設省令で定める公告すべき事項として、「土地区画整理事業の名称」(同項一号)、「事務所の所在地」(同項二号)及び「事業計画の決定の年月日」(同項三号)と、同規則四条の四は、法五五条九項の公告の方法について、「公告は、官報、公報その他所定の手段により行わなければならない。」と、同規則四条の五は、「市町村長は、法五五条八項の規定による図書の送付を受けた場合においては、直ちに、その図書の縦覧場所を公報その他所定の手段により公告しなければならない。」とそれぞれ規定している。

この点、施行規則四条の四及び同条の五にいう「所定の手段」とは、本件整理事業のように都道府県又は市町村が施行者である場合には、地方自治法一六条四項の委任に基づいて制定される条例の規定する方法ということができるところ、被告福井市においては、右地方自治法の規定に基づく条例として公告式条例が定められているから、右「所定の手段」とは、結局、公告式条例に準拠した方法をいうと解するべきである。

そして、公告式条例の定める市役所の掲示場及び市内の各連絡所の掲示場に掲示するという公告の方法は、公告の方法として合理性を有すると解されるから、公告式条例が地方自治法の委任の範囲を逸脱して違法であるとはいえない。

2  そこで、以上を前提として本件整理事業について検討するに、前記のとおり、被告は、平成四年一一月一八日、本件整理事業の事業計画の縦覧開始の日、縦覧場所及び縦覧時間(施行令三条)を、同年一二月二八日、施行者の名称、事業施行期間、施行地区、土地区画整理事業の名称、事務所の所在地及び事業計画の決定の年月日(法五五条九項、施行規則四条一項)を、同日、法五五条八項の規定により送付を受けた図書の縦覧場所(施行規則四条の五)を、平成五年一月八日、委員の選挙期日及び選挙人名簿の縦覧開始の日、縦覧場所及び縦覧時間(施行令一九条、二一条一項、同条二項、三条)を、同年二月一六日、選挙人名簿の縦覧期間内に異議の申出がなかったこと及び施行地区内の宅地の所有者又は施行地区内の宅地について借地権を有する者が当該選挙において選挙すべき委員の数(施行令二二条一項、同条四項)を、それぞれ福井市役所前掲示場並びにα、β、γ、δ及びεの各連絡所の掲示場に掲示して公告しているところ、右は法令が公告を要求している事項を公告式条例に準拠して公告したものということができる。

そうすると、被告は、法令により公告が要求される事項について、公告式条例に準拠した公告をしているのであるから、右公告に違法はないというべきであるし、このような適法な公告がされている以上、本件仮換地指定処分は、原告らに、事業計画の縦覧(法五五条一項)、利害関係者による福井県知事宛の意見書の提出(同条二項)、図書の縦覧(同条一〇項)、関係簿書の閲覧(法八四条二項)、委員の選挙における被選挙権及び選挙権の行使(法五八条一項、法六三条一項)等の機会を与えなかったものであるということもできない。

3  これに対し、原告らは、利害関係者が公告にかかる事項について現実に了知することが必要であるかのごとく主張するが、右にみたとおり、法令は利害関係者が公告にかかる内容を現実に了知することは要求していないから、右原告らの主張は失当である。

また、原告らは、原告らのような福井市外に居住する者に対しては、公告式条例に準拠した公告では実効性がないのであるから、このような場合は、被告において、公告方法の不備を補充する何らかの手続を講じるべきことが法の趣旨から要請されていると主張する。この点、原告らの主張するとおり、公告式条例に準拠した公告のみでは、福井市外に居住する者が、公告の内容を現実に了知する可能性は低いということができるところ、公告の要求される事項は土地区画整理事業を進めるに当たって重要な事項であり、できるかぎり多くの利害関係者が現実に了知することが望ましい事項であることは明らかであるから、公告に加えて、施行地区内の権利者の住所を不動産登記簿や住民票を用いて調査し、当該住所宛に各種のお知らせ文書や説明会開催の案内等を送付するなどの補助的手段を取ることが望ましいことは言うまでもないところである。したがって、被告が、本件整理事業において右のような補助的手段を採用していなかったことは、施行者として不親切であったという非難は免れない。しかし、右に述べたとおり、法令上は右のような補助的手段が要求されていると解する根拠はなく、これを行わなかったからといって、本件仮換地指定処分の手続が違法であるとまでいうことはできない。

一  照応の原則違反の有無(争点2)について

1  土地(一)ないし(五)に対して指定された仮換地(土地(一〇))及び土地(八)及び(九)に対して指定された仮換地(土地(一三))は、いずれも従前地の地積に比して著しく減歩されており、照応の原則に違反するとの主張(原告らの主張(一))について

本件整理事業においては、条例により施行規程が定められ、これに基いて事業が施行されているところ、施行規程は、「換地計画において換地を定めるときの基準となる従前の宅地各筆の地積は、事業計画決定の公告があった日現在におけるその登記されている地積とする。」(一七条)、ただし、「宅地の所有者又は宅地について所有権以外の権利を有する者は、右地積が事実と相違すると認めるときは右事業計画決定の公告があった日から三〇日以内に施行者に地積の更正を申請することができる。」(一八条一項)、「施行者は、前条の基準地積が明らかに事実に相違すると認める宅地及び特に地積について実測する必要があると認める宅地について、その宅地の所有者及びその宅地に隣接する土地所有者の立会いを求めて、その宅地の地積を実測してその基準地積を更正することができる。」(同条三項)、「施行者は、施行地区を適当と認める区域に分割し、各区域について実測した宅地の地積とその区域内の宅地各筆の基準地積を合計した地積との間に差異がある場合は、その差異に係る地積を区域内の宅地各筆の基準地積に按分して、宅地各筆の基準地積を更正しなければならない。」(同条四項)と定めている。

右施行規程の各規定は、原則として登記簿上の地積を基準地積として(仮)換地指定処分をするというものであるから、地積更正の申請、施行者の判断による実測、区域内の宅地各筆の基準地積を合計した地積との間の差異に係る地積の按分という基準地積の更正の手段があるとはいえ、実測面積を基準地積とする場合と異なり、所有者等の権利者は、各宅地間の縄延び、縄縮み率の大小の差異により、実測面積とは大きく異なる面積を基準地積として(仮)換地の指定を受ける可能性がある。

この点、法九八条一項に基いて仮換地を指定する場合においても、法八九条一項所定の基準、すなわち換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように指定しなければならない(法八九条二項。以下「照応の原則」というときは、法八九条一項のことをいう。)。

しかし、土地区画整理事業は、施行者が一定の限られた施行地区内の宅地につき、多数の権利者の利益状況を勘案しつつそれぞれの土地を配置していくものであり、すべての宅地についてその面積を実測するとすれば著しい手続の遅延及び経済的費用の増加を招くことは必至であることに加え、権利を公示するという不動産登記制度の趣旨を考慮すれば、右のような基準地積を更正する手段を設けた上で、登記簿上の地積を基準地積とした施行規程は、法八九条一項の基準の枠を逸脱するものではなく、有効というべきである。

そして、被告は、本件仮換地指定処分に当たり、別紙一のとおり、施行地域を複数の区域に分割し、各区域ごとに、区域内の登記地積の合計から区域内の実測確認した宅地の登記面積の合計を減じて「区域内で基準地積を更正する宅地の登記地積の合計」を算出し、他方で、区域内の実測した宅地の地積から区域内の実測確認した宅地の確認地積の合計を減じて「区域内で基準地積を更正する宅地の実測地積」を算出し、右「区域内で基準地積を更正する宅地の実測地積」を「区域内で基準地積を更正する宅地の登記地積の合計」で除して按分率を求め、土地(一)ないし(五)、土地(八)及び(九)のいずれについても、登記地積に右按分率を乗じて基準地積を更正し、右更正された基準地積をもとに、土地(一)ないし(五)に対しては土地(一〇)を、土地(八)及び(九)に対しては土地(一三)をそれぞれ仮換地に指定したことが認められ(弁論の全趣旨)、右の基準地積の更正の手続は、施行規程一七条、一八条四項に準拠したものであることは明らかである。

(三) したがって、本件仮換地指定処分において、仮換地の地積が従前地の地積に比して著しく減歩されているからといって、そのことから右仮換地の指定が照応の原則に違反するとはいえない。

(四) なお、原告らは、被告は従前地の基準地積の更正について、施行規程一八条を遵守していないと主張するが、前記一、2のとおり、被告は本件整理事業の事業計画等につき適法な公告を行っており、原告らには地積更正の機会が与えられていたということができるから、被告の従前地の基準地積の更正は施行規程一八条に準拠したものというべきである。

2  本件整理事業において、従前地である土地(一)、(二)、(四)、(五)及び(八)の西側に接する道路の拡幅が右各土地側についてのみ行われ、その反対側には全く各幅されておらず、照応の原則に違反するとの主張(原告らの主張(二))について

前記のとおり、法九八条一項に基いて仮換地を指定する場合においても、法八九条一項の照応の原則の適用がある(法八九条二項)。

しかし、土地区画整理事業は、施行者が一定の限られた施行地区内の宅地につき、多数の権利者の利益状況を勘案しつつそれぞれの土地を配置していくものであり、また、仮換地の方法は多数ありうるから、具体的な仮換地指定処分を行うに当たっては、法八九条一項の基準の枠を逸脱しない範囲において、施行者の合目的的な見地からする裁量的判断に委ねられているというべきである。

そして、道路の設置位置は原則として施行者の右裁量的判断によって決せられるものであって、新たに設置される道路が従前の道路の位置に拘束される理由はなく、新たな道路が従前の道路の拡幅に当たる場合でも、その拡幅方向は施行者の右裁量的判断により決せられるべきものである。

したがって、道路の拡幅が従前地である土地(一)、(二)、(四)、(五)及び(八)の側に対してのみ行われたことから、直ちに照応の原則違反の問題が生ずることはなく、右拡幅により右各土地が他の土地と比較して、大きく減歩されたり利用価値が損なわれるなど、著しい不公平、不平等といえるような事情がある場合のみ照応の原則に違反するというべきであるところ、前記1、(二)のとおり、土地(一)、(二)、(四)、(五)及び(八)に対する仮換地の指定は、登記簿上の地積を基準に公平にされたものと認められ、他に右仮換地の指定において著しい不公平、不平等があったことを窺わせるような事情はないから、照応の原則に違反するということはできない。

3  土地(六)及び(七)に対して指定された仮換地(土地(二)、(一二))は、間口が従前地に比して狭く、利用価値が低下し、特に仮換地の土地(一一)と(一二)を分筆して利用した場合においてその程度は著しく、照応の原則に違反するとの主張(原告らの主張(三))について

従前地である土地(六)及び(七)は一体として利用されていたところ(当事者間に争いがない。)、一体として利用されていた土地に対する仮換地の指定について照応の原則を考える場合は、従前地、仮換地とも、これを一体として利用する場合を考慮すれば足りると解される。したがって、原告らの主張のうち、仮換地である土地(一一)と(一二)を分割して利用するとすれば、利用価値及び価格が著しく低下するとの主張は、それ自体失当である。

そして、従前地と仮換地をそれぞれ一体のものとしてみた場合、仮換地は従前地よりも間口が狭まるのはそのとおりであるが、仮換地の間口は九・一一メートルであるから(乙11)、これを宅地として利用することに特段の支障があるとは認められず、他に右間口の減少をもって、従前地よりも著しく利用価値や価格が低下すると認めるに足りる証拠はない。したがって、土地(六)及び(七)に対する仮換地の指定が照応の原則に違反するということはできない。

4  土地(六)ないし(九)に対して指定された仮換地(土地(一一)ないし(一三))の間口が従前地に比して狭く、従前地上の建物をそのまま移転することができず、このような従前の利用方法が全く不可能となるような仮換地の指定は照応の原則に違反し、また、従前地上の建物の借地権は消滅する点でも、違法であるとの主張(原告らの主張(四))について

原告らの主張は、要するに従前地の借地人の不利益をいうものであり、原告らの利益には関係しないところ、取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることは許されないから(行政事件訴訟法一〇条)、原告らの主張はそれ自体失当である。

また、従前地である土地(六)及び(七)、土地(八)及び(九)は、それぞれ一体として利用されていたところ(当事者間に争いがない。)、一体として利用されていた土地に対する仮換地の指定について照応の原則を考える場合は、従前地、仮換地とも、これを一体として利用する場合を考慮すれば足りると解される。そして、乙11、12及び弁論の全趣旨によれば、土地(六)及び(七)に対する仮換地である土地(一一)および(一二)、土地(八)及び(九)に対する仮換地である土地(一三)の形状が従前地と異なり、従前地上の建物をそのまま移転することができないとしても、いずれも地積に顕著な増減はなく、形状も矩形であることからして、建物自体は建築可能であり、従前地と同等の利用が可能であることが認められる。そして、従前地上の建物の解体移転や除却が必要となり、場合によっては借地権が消滅するとしても、それは被告の借地人に対する補償により解決することが可能である。したがって、右仮換地の指定が照応の原則に違反するということはできない。

5  土地(一)ないし(五)のうち公図上国有地であるが、現況は宅地として土地(一)ないし(五)に取り込まれていた部分について、これに相当する仮換地が指定されなかったことは、照応の原則に違反するとの主張(原告らの主張(五))について

右原告らの主張は、もと国有地であった土地の所有権を取得したという主張ではなく、単に国有地を宅地の一部として占有していたというものにすぎないところ、国有地は宅地ではないから(法二条六項)、これに対して仮換地が指定されないのは当然のことである。したがって、従前土地である土地(一)ないし(五)に取り込まれていた国有地に対して仮換地が指定されなかったことに何ら違法はない。

6  Gが本件整理事情の施行地区内に所有していた土地のうち、公図上国有地であるが現況は宅地として取り込まれていた部分及び現に道路の用に供されていた部分について、これに相当する仮換地が指定されなかったことは、公平の原則に違反し、その結果、本件仮換地指定処分もまた照応の原則に違反するとの主張(原告らの主張(六))について

原告らの主張は、Gが仮換地の指定を受けて不利益を受けたというものであるが、Gが過少な仮換地の指定を受けた場合、原告らはそれにより過大な仮換地の指定を受けることはありうるとしても、過少な仮換地の指定を受けることはないのであるから、右は結局原告らの利益には関係しないことになる。そうすると、前記のとおり、取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることは許されないから、原告らの主張はそれ自体失当である。

なお、弁論の全趣旨によれば、Gの所有土地に対して指定された仮換地の減歩率が高い原因は、Gの土地には赤道すなわち国有地が取り込まれており、また、その一部が私道敷に供されていたことから、これらの部分に仮換地を指定しなかったことにあることが認められる。しかし、前記5のとおり、国有地に対して仮換地が指定されないことに何ら違法はない。また、私道敷に供されていた土地については、私道敷は法九五条一項六号の公共施設の用に供している宅地に該当するところ、同条六項は、「土地区画整理事業の施行により当該宅地に存する公共施設に代るべき公共施設が設置され、その結果、当該公共施設が廃止される場合においては、換地計画において当該宅地について換地を定めないことができる。」と定めており、弁論の全趣旨によれば、Gの所有土地についても本件整理事業により私道敷に代替する道路が設置されることが認められるから、右私道敷に対して仮換地が指定されないことにも何ら違法はない。

7  以上のとおり、本件仮換地指定処分に照応の原則に違反する点はないというべきである。

三  本件整理事業における未指定地の適法性(争点3)について

1  本件未指定地は、法九六条二項の「保留地」予定地である。同項の保留地は、①土地区画整理事業施行後の宅地の価格の総額と施行前の宅地の価格の総額との差の範囲内で、②事業費用にあてるために認められるものであるが、原告らは②の要件については特に問題としていない。

2  この点、乙23によれば、被告は、事業計画において、本件整理事業によって、施行地区内の宅地価格総額は整理事業前の二九九億七八五四万九〇〇〇円から整理事業後は三四五億四八一一万円(一平方メートル当たりの宅地価格は整理事業前の五万七七〇〇円から整理事業後は七万八八〇〇円)に上昇するとした上で、宅地価格総額の増加額を四五億六九五六万一〇〇〇円、保留地として取り得る最大限地積を五万七九八九・三五平方メートルと計算し、このうちの七五・一三パーセントに当たる四万三五六七・五平方メートルを保留地予定地として、未指定地としたことが認められる。

3  この点、右被告の保留地の最大限地積に関する価格計算は合理的なものということができる。その理由は、以下のとおりである。

(一) まず、事業計画は、このうちの「設計の概要」について都道府県知事の認可を受けなければならず(法五二条一項)、「設計の概要」には、保留地の予定面積が含まれる(施行規則六条一項、二項)。したがって、右保留地の最大限地積に関する計算は、第三者によって妥当なものと判断されているものである。

土地区画整理事業は、事業区域内の当該土地の利用の内容を著しく高めることは、日常の経験上明らかである上、右利用価値の増大は巨額の事業費の投入に基因して、必然的に当該土地の資産価値の増大をもたらすものということができるから、土地価格の上昇に結びつくこともまた社会通念上明らかというべきである。

もちろん、土地価格の変動には幾多の複雑な要因が影響することからすると、一般的に土地区画整理事業地区内の土地の価格の上昇と右事業との因果関係、あるいは価格上昇に占める土地区画整理事業の寄与度を数値をもって判定ないし査定することは困難を伴うが、強いてこれを評価するに当たっては、当該事業及びその関連事業の投資額が参考になるということができる。

この点、乙23によれば、本件整理事業の総事業費は八五億二〇〇〇万円(一平方メートル当たり一万四三一九円。なお、整理事業後の宅地面積の割合は七三・六八パーセントである。)であること、そのほか、本件整備事業と併行して一級河川ι川河川改修工事(事業費一〇五億円)、福井市単独公共下水道事業(事業費一三三八億六四〇〇万円)、近隣公園北部二号公園整備事業(事業費三億五八〇〇万円)が行われていることが認められ、これに照らせば、一平方メートル当たりの宅地価格が整理事業前の五万七七〇〇円から七万八八〇〇円に上昇するとした被告の価格計算は不合理とはいえない。

(三) 他に右被告の価格計算が不合理であることを窺わせるような証拠はない。

4  したがって、右計算により算出された保留地として取り得る最大限地積のうち、七五・一三パーセントを保留地の予定地として未指定地としたことは、法九六条二項の要件を満たすものである。

なお、原告らは、未指定地の配置が、所有者に身指定地を買い受けさせて事業費用を捻出しようとした不合理なものである旨主張するが、未指定地の配置は被告の裁量に属するものというべきであり、弁論の全趣旨によれば、被告は、建物の移転が最小限となるように未指定地を配置したものと認められ、裁量権の逸脱、濫用のないことは明らかであるから、本件未指定地がその配置から違法であるということはできない。

四  文化財保護の観点からの違法事由の有無(争点4)について

乙18によれば、本件石垣は、文化財保護法五七条に定める埋蔵文化財であるが、出土状況等が明確ではなく、その史料的価値は低下していること、埋蔵文化財については本来文化財保護法五九ないし六一条に基づいて通知、認定、鑑定される必要があること、本件石垣の移転、移設は可能であることが認められる。そうすると、土地(一)ないし(五)に対する仮換地の指定により、本件石垣の移転の必要が生じるからといって、そのことのみをもって、右仮換地の指定が福井市民全体に文化的損失を与えるものとして違法であるということはできない。

五  以上のとおり、本件仮換地指定処分に違法な点はないから、原告らの請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 岩田嘉彦 裁判官 酒井康夫 裁判官 岩崎邦夫)

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